1. DNA microscopy論文のまとめ
2019年07月24日
By Soh
背景
- 蛍光標識オリゴやタンパク質を用いて分子の位置、局在などが古くから解析されてきたが、依然として細胞や組織で発現するDNAやRNA、タンパク質の位置を一斉にプロファイルすることは難しい。
- 例えば、光学系を利用したsmFISHなどを巨大で厚みのある対象についてやるのはまだまだチャレンジング。
- DNA microscopyは、これとは全くことなる”modality”であり、分子間の近接情報をシーケンシングにより取得し、その分子の位置を復元する新しい「顕微鏡」のコンセプト。
方法
- 0.25% Triton X-100で培養細胞を固定、透過処理。
- In situ cDNA合成反応でGAPDH mRNAのみを選択的にcDNAに変換し、これを’beacon’と呼ぶ。どの細胞にも満遍なく発現している遺伝子であれば何でもok。それ以外のmRNA分子は、’targets’と呼び別のプライマーでcDNA合成される。beaconとtargetはお互いにことなるアダプター配列で識別できる。
- このbeaconとtargetsのcDNA合成プライマーには、29塩基の長いUMIがついている。UMI (Unique Molecular Identifier)は、cDNA合成用の一本鎖DNAの持つランダムな塩基配列で、cDNA合成時に各々のmRNAは一分子づつ異なるUMI配列を受け取る。
- このステップでは、一分子ごとにUMIで標識されたbeaconとtarget分子をoverlap extension PCRによって連結する。一般的なPCRはtemplate分子が一つであるが、ここではお互いに共通の配列を持つ2つの分子がtemplateとなり、PCR反応によって連結される。この反応で重要なポイントは、2つの分子がconcatenate (連結)されるレートは、その分子の物理的な近接性を反映するものであるということである。当然、離れた分子同士はoverlap PCRによって連結される確率は距離に反比例?して低くなる。これがDNA microscopyの根幹のアイディアである。
- 一方このプロセスには問題もある。この2つの分子の連結イベントを定量的にシーケンシングによって読み出す場合、PCR反応時における離れたUMI同士がクロスコンタミ、PCR polymeraseのtemplate-switching活性 (別のcDNAテンプレートに乗り換えて合成してしまう)、などで近接しない分子同士が誤って連結されてしまうなど様々なバイアスが想定される。これを解決するために、Unique Event Identifier, UEIというアイディアが生み出された。このUEIは、cDNAをoverlap extension PCRによって増幅するさいに使うプライマーであり、ある2つのUMI分子間の連結イベントをユニークに標識する別の20塩基の分子バーコードである。なので、このUEIの頻度情報は、UMIの共局在の頻度を反映するものになる。したがって、分子の位置情報は任意のUEI同士のproximityに変換できるので、proximityから逆に位置情報がある距離関数の元に復元できるというロジック。
- このDNA産物をillumnaでpaired-end sequencingすることによって、ある分子のUMI1、UMI2、UEIのペアの情報が一斉に取得でき、巨大な分子間の距離行列から空間構造を推定、再構成することが可能となる。
- UEI count matrix (Diffusion clouds間の距離行列)からは、locally rigid embeddingという手法が使われている。(A remark on global positioning from local distances, https://www.pnas.org/content/105/28/9507)
- 2つのローカルな距離が十分にサンプリングされれば、全体の構造がほぼ正確に求まるというものぽい。
分からないこと・論点
- 細胞間でUMI/UEI情報が取得できてしまうのは、diffusionによって漏れ出した分子なのか?PCR反応で100℃ちかく温度を上げているが、それは問題ないのか….?
- In gel PCRという手法を使うことで高温でもslow diffusionを実現しているっぽい。
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27479330
- 組織切片とかではなく、厚みのあるサンプルでも可能になる?あとreaction chumberのスケーラビリティが謎。
- 一分子解像度で分子の位置を決めることにはあまり価値はなく、smFISHをすればよい。それよりも細胞や組織の大域的な構造や性質?をシーケンシングによって取れる、ところに大きなアドバンテージがある。