Researchat.fm

Researchat.fmは、バイオロジーの研究者3人がアツいと感じていることを自由に話すポッドキャスト番組です。

11. Intelligence requires a body

Published on May 23, 2019

Episode summary

身体改造・身体拡張特集回。ナノ粒子を網膜に打ち込むことで近赤外線が「見える」ように改造されたマウスの論文から始まり、超能力(第六感)、バイオハッキング (Biohacking)、グラインダー (Grinder)、侵襲性・非侵襲性デバイス、自由意志、ニューロハッキングについて話しました。

Starring

tadasu
tadasu
soh
soh
coela
coela

Show note

身体改造・拡張について

  • Embodied Artificial Intelligence -On the role of morphology and materials in the emergence of cognition-. Pfeifer. 2002…Inteligence requires a body.
  • Mammalian Near-Infrared Image Vision through Injectable and Self-Powered Retinal Nanoantennae. Ma et al., Cell, 2019…哺乳類は750nm以上の波長を持つ赤外線域の光を見ることはできない。本論文では、985nm周辺の近赤外線により励起し、580nm周辺の緑の光を放出するナノ粒子を、マウスの光受容体、桿体細胞のouter segment上に外科手術によって注入することで、赤外線を緑色光としてマウスが知覚できる様になったことを示した。ゲノム配列の変化を伴わない、侵襲性生体デバイスのこれからの発展を匂わせる論文である。
  • ロドプシン… ヒトの「見える」という機能を支えるタンパク質。最近では光によって様々な操作を細胞内で行う光遺伝学という分野において、もっとも重要な位置を占めるタンパク質でもある。
  • シャコのロドプシン… 本ポッドキャスト内ではシャコのロドプシンは23種類と言ったが、実際には12種類であった。しかし、ヒトの眼には通常、赤、緑、青の光にそれぞれ反応する3種類しかないため、それと比較すると、シャコは驚異的な色覚を持つと予想されていた。しかし、最新の研究では、シャコの色覚は、12種類の光受容細胞からの情報を組み合わせるのではなく、個々の光受容細胞からの情報を単独で処理する単純かつ効率的な機構に頼っていることが判明した。この発見により、シャコが驚異的な色覚を持つという予想は完全に覆された。
  • Long-term in vivo glucose monitoring using fluorescent hydrogel fibers. Heo et al., PNAS, 2011…東大の竹内研から発表された論文。マウスの耳に血糖値に応じて光の強度が変化するハイドロゲルを埋め込み、ライブで血糖値の変化を測定することに成功した。これもこれからの侵襲性生体デバイスの開発を期待させる、とても面白い論文となっている。
  • ピット器官…ニシキヘビや、ガラガラヘビ、マムシはピット器官を通して、赤外線を感じることができる。下記のロレンチーニ器官もそうであるが、世の中にはヒトが知覚不可能な現象を感知する仕組みを持つ動物たちが存在する。その意味で、本ポッドキャストでは自然界に実在する「超能力」として紹介した。
  • ロレンチーニ器官…サメの頭部に存在する小さな穴の器官のこと。プロトン伝達体であるゼリー状の物質が詰まっており、100万分の1ボルトという極小の電位差を感知することができる。
  • 身体改造(body modification)… タトゥー、スカリフィケーション、ピアス・肉体穿孔、インプラント、セイリーン・インフュージョン、ボディ・サスペンション、纏足、宦官、トレパネーションなど。伸長・狭窄・切開・切断・縫合・焼灼などの手段を用い、人間の肉体に意図的に、また多くの場合は恒久的に変形を施すことで装飾する行為である。
  • カストラート… 本ポッドキャストでは触れなかったが、男性ホルモンの分泌による第二次性徴期における変声期を飛ばすために施された去勢のことを指す。これにより、ボーイ・ソプラノ時の声質や音域をできうる限り持続させようとした。今は人道的な理由から廃れた。
  • シックスパック、ミケランジェロ…日本の身体改造業界における先駆者である高須院長の見事なシックスパックは必見である。
  • Grinder(biohacking): グラインダー(バイオハッキング)…DIYの精神で、身体をサイバネティックなデバイスによって改良する、もしくは化学物質を体内に注入することで身体を変化させたり、体の機能性を強化させたりする人たちのことをグラインダーと呼ぶ。ハッカー文化の一つとして考えられている。本ポッドキャストは、彼らの動向に注視していく必要があるだろう。
  • CRISPRを自分の体に打ち込んだ男
  • I Have a Magnet Implant In My Finger…磁石を指の先にいれてどのように生活が変わっていったのか、Grinderの体験記。触覚の一部としての”磁覚”が目覚め始める。
  • Why most of Three Square Market’s employees jumped at the chance to wear a microchip - 従業員にマイクロチップを導入する事で軽食などの購入をマイクロチップ経由で可能にしようとした。
  • 耳にヘッドフォンを埋め込みガチで「No Music No Life」を達成した男…耳をヘッドフォン化したグラインダー
  • The Most Extreme Body Hacks That Actually Change Your Physical Abilities…暗視目薬の自作から、大きな生体デバイス(テキストを発信することが可能)、そしてポッドキャスト内では触れなかったアレの切断まで、Grinderたちの挑戦についてまとめられた記事。
  • Bluetoothによって脳波を飛ばすことで、下半身麻痺状態の男性の歩行をコントロールする
  • 自由意志
  • 機能的電気刺激による動作を、自分自身の能力でタスク遂行したと誤解させる研究(稲見先生のツイート)… 機能的電気刺激で、本来の動作より速く正確にに手指を制御。しかし本人は自分自身の能力でタスクを遂行できたと誤解。
  • Google Xの血中ナノマシンプロジェクト…Google Xが開発しているとされている血中ナノマシンについての記事。最近はあまり話を聞かない。
  • Autologous Induced Stem-Cell–Derived Retinal Cells for Macular Degeneration. Mandai et al. N Engl J Med, 2017…加齢黄斑変性の患者の網膜に対して、患者自身のiPS細胞に由来する網膜色素上皮シートを移植した論文。
  • 攻殻機動隊
  • サナダムシをお腹の中で飼っていた藤田紘一郎先生…サナダムシを自分の体内で飼っていたエピソード。何かを体に寄生させるという設定はフィクションの世界でも幅広く使われており、幽遊白書の北神が用いた装具や家畜人ヤプーのエンジン虫などを想起する方もいるだろう。今回は、抜けてしまっていた領域なので、このような形での身体拡張の世界も調査する必要がある。
  • スケルトニクス…とりあえずかっこいい。
  • The Thrid Thumb Project: 6本目の指…原題は3本目の親指。小指の横に装着され、フットペダルによって操作する。
  • 東京大学稲見・檜山研究室
  • 未踏プロジェクト
  • MetaLimbs…4本腕について。動作原理は6本目の指と似ている。
  • 忍風カムイ外伝 5話「五ツ」…名張の五ツは、カムイ外伝に登場する胸から3本目の腕が生えている忍者の一人。両手両足に胸からの腕を含めて五ツ。
  • Neurohacking…カフェインやアルコールに始まり、スマートドラッグなどを用いたニューロハッキングについての記事。本ポッドキャストでは話すことができなかったが、スマドラ後進国日本の我々としては、諸外国の動向は気になるというのが正直なところであろう。
  • スマートドラッグ…ヌートロピックやメモリエンハンサー、ニューロエンハンサー、コグニティブエンハンサー、インテリジェンスエンハンサーと、様々な呼び名を持つ、スマートドラッグ(通称スマドラ)。ADHDやナルコレプシーの治療薬などが用いられるが、日本では覚せい剤認定されていたり、医療以外での利用が難しいケースがほとんどである。また諸外国でもスマドラの常用、乱用が非常に大きな問題となっている。ダメ!絶対!

マンガ

その他

  • mixi 昔、インターネットにはmixiという大国があった!!!我々の青春は間違いなくmixiと共にあったが、今や兵どもが夢の跡状態である。そして、その残り香を楽しめる時間も、もう長くないかもしれない。アカウントを持っている方は、インターネットの辺境にひっそりと佇む古代帝国mixiを徘徊してみていただきたい。mixiは加入した順番でidが振られているので、id=1はmixiという大国を作った創造神の証である。id=2は初代社長。mixiのコミュニティは素晴らしいインターネット上の社交場だったと思うが、現在、代替するものは存在していない

Editorial notes

  • 知性と肉体の不可分性について考えさせられた回であった。タイトルには、Rolf Pfeifer博士の言葉を引用した。バイオハッキングによる肉体の変容は、人間の「知性」をどのように変容させるのか。自己の肉体を自由にハッキングしているグラインダーという先駆者の存在を知った。彼らの文化や実験をこれからも追跡していきたい (興味はあるが、今の所自分が施す勇気はない) (tadasu)。
  • バイオハッキングは何もアメリカのごく一部のオタクたちのハッカー文化ではなく、程度の差こそあれ、メガネやコンタクトレンズといった器具も社会に広く受け入れられた非侵襲性の身体拡張として捉えることができる、というのは非常に新鮮だった。今後登場する様々な非侵襲的なデバイスによって、我々の知性は大きく変えられてしまう可能性があり、新しい認知をもとにした映画や文学の登場を期待したい (Soh)。
  • まずはドリアン海王の発言が一部間違っていた事を深くお詫び申し上げます。遅かれ早かれ、攻殻機動隊や銃夢みたいな時代は絶対に来ると思うのだが、転換期となるキラーアプリケーションが何になるなのか気になる。あとアイアンマンとかガンダムが好きなので、着脱が簡単なボディスーツの発展も同時に期待したいところです(coela)。