9. One-shot beautiful experiment
Published on May 05, 2019
Episode summary
シドニー・ブレナー博士特集回(後半)では、顕微鏡を用いた線虫の全細胞系譜追跡の偉業を振り返るとともに、CRISPR-Cas9ゲノム編集法やイメージング技術を用いた最新の細胞系譜追跡技術、技術開発にまつわる世代を超えたアイデアの伝搬とその哲学、顕微鏡(光学系)を使わないイメージング技術の台頭などについて話しました。
Starring
Show notes
- The embryonic cell lineage of the nematode Caenorhabditis elegans. Developmental Biology, 1983…Sulstonらによって線虫の全細胞における細胞系譜が初めて明らかにされた記念碑的な論文。Sulstonは4時間に及ぶ顕微鏡観察を毎日2回繰り返すことを何年も続け、959個の細胞系譜を明らかにした。
- Jey Shendre…HarvardのGeorge Churchのlabで博士課程の学生だった頃、一発の実験で細胞系譜を一斉に追跡できるテクノロジーを作れ、と言われ無茶苦茶だと思いつつ取り組んだがうまく行かなかった。独立後、ラボメンバーとともにCRISPR-Cas9によるゲノム編集を用いることで当時は不可能だったアイデアを実現させ、それがGESTALT法 (Science 2016)となった。
- Whole-organism lineage tracing by combinatorial and cumulative genome editing. Science, 2016…Jey Shendreによる全く新しい細胞系譜の追跡方法。CRISPR-Cas9によるゲノム編集を人工的な配列に引き起こすことにより、生体内で変異パタンを生成させ、このパタンの系統樹を描くことにより細胞系譜を追跡するGESTALT法。ゼブラフィッシュにおける複雑な細胞系譜が顕微鏡を使わず、一度のシーケンシングによって再構成できることを世界で初めて示した。このアイデアに世界中の研究者らが触発され、多くの関連技術群が開発される契機となった。
- Synthetic recording and in situ readout of lineage information in single cells. Nature, 2016…Long CaiとMichael ElowitzらによるCRISPR-Cas9と一分子RNA FISH法を組み合わせた細胞系譜の追跡技術、MEMOIR法。人工的な配列が時間経過とともにゲノム編集によって破壊され、一分子RNA FISHの蛍光が減弱するパタンを利用して、細胞系譜を追跡することができる方法。
- light sheet fluorescence microscopy…Light sheet fluorescence microscopyのアイデア自体は古く、100年近く遡る。最近の光学系とカメラ、制御系の発展により、大きな分野となりつつある。
- Transgenic strategies for combinatorial expression of fluorescent proteins in the nervous system. Livet et al. Nature, 2007…Brainbowのオリジナル論文。Cre-LoxPによるDNA組み換え酵素によって複数の蛍光タンパク質をランダムに発現させ、その多色のパタンによってクローンを標識・追跡が可能となる。
- Sequencing the connectome. Zador et al. PLos Biol., 2012- ZadorらによるDNAバーコードを用いたコネクトーム計測のアイデア論文。大規模な空間情報を顕微鏡を使わずにいかにシーケンシングによって明らかにするか?という全く新しい発想を提示した一方、このアイデアがどのように実現できるのか、この当時はまだ自明でなかった(今も)。
- Comprehensive mapping of long-range interactions reveals folding principles of the human genome. Lieberman-Aiden et al. Science, 2009…Hi-C法のオリジナル論文。この論文を起点として、核内における染色体高次構造、クロマチン構造解析が爆発的に進むようになった。
- Capturing chromosome conformation. Dekker et al. Science, 2002…Hi-C法の基礎となった3C法のオリジナル論文。ホルムアルデヒドによる固定、制限酵素による切断、ライゲーション、PCR増幅という分子細胞生物学に必須ないくつかの基本的なテクニックを組み合わせることで、Job Dekkerはこの天才的なアイデアを生み出した。3C法の発明は分子細胞生物学、ゲノミクス研究の歴史において特異点的な偉業である。Job Dekkerはこの方法論にたどり着いた理由について、彼自身が博士時代にNMRの研究を行なっていたこと、分子生物学の実験でPCRだけはうまくできたこと、実験初期にすぐにうまくいったことだと、以前tadasuに語ってくれた。しかしその特異さゆえ、2009年のHi-C論文が世に出るまではなかなか評価されることはなかった。
- Turning point: Job Dekker…Job Dekkerのポスドク回顧録。
- DNA microscopy: Optics-free spatio-genetic imaging by a stand-alone chemical reaction…Avivによる光学系を全く用いない顕微鏡のアイデアであるDNA microscopy法。この技術の行方は今後も注視する必要がある。
- low-input, high-throughput, no-output biology…Brennerが2008年に残した言葉。
- “Progress in science depends on new techniques, new discoveries and new ideas, probably in that order”というSydney Brennerの言葉